大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 平成8年(少)128号 決定

少年 E・K子(昭和56.9.12生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第1  平成7年11月28日午前9時ころ、東京都豊島区○○町×丁目××番××号先路上において、何者かが遺留したA所有の自転車1台(時価約7000円相当)を発見拾得したが、警察署長に届け出るなど正規の手続を経ないで、自己の用に供するため、これをほしいままにその場から持ち去り、もって横領した。

第2  両親に養育され、区立中学2年に在学しているが、学習意欲に乏しく、学校の教室で同級生の金銭等を盗んだことが発覚したことなどを契機として、平成7年6月11日ころ以降はほとんど登校していない。また、中学1年の平成6年夏ころ、母親と喧嘩をして家を飛び出し、行きずりの男性とホテルに宿泊するなどしたほかこれまで再三にわたって無断外泊を繰り返している。更に平成7年9月ころから同年10月ころまでの間、アルバイトと称していわゆるテレクラを利用して不特定多数の男性と交際したり性関係を持つなどして小遣いを稼いだり、近所の中年の男性から数回にわたって小遣いをもらったり衣類を買ってもらうなどし、同年11月ころには行きずりの男性に声をかけられて行動をともにするようになり、その後交際を続けて食事をしたり性関係を持つなどのふしだらな生活を繰り返している。このほか、同年12月24日には母親の指導に反発して自宅で同女に暴力を振るうなどしている。このように、少年は保護者の正当な監督に服さない性癖があり、不道徳な人と交際し、自己の徳性を害する行為をする性癖があり、その性格又は環境に照らし、将来窃盗、売春防止法違反等の罪を犯すおそれがある。

(法令の適用)

第1の事実 刑法254条

第2の事実 少年法3条1項3号本文、同号イ、ハ、ニ

なお、平成7年少第5325号ぐ犯保護事件は平成7年11月8日に、同年少第6433号ぐ犯保護事件は同年12月25日にそれぞれ送致されているが、その経緯を記録によって検討すると、平成7年11月8日に不登校、不純異性交遊等を理由として第1回のぐ犯送致が行われ、その後、母親の指導に反発して暴力を振るい、連絡を受けた警察官が少年を保護し、第1回の送致事実に同送致後の事情を付加して同年12月25日付けで第2回のぐ犯送致が行われ、同日観護措置の決定がなされたことが明らかであり、これによれば、上記2回にわたるぐ犯送致は、合わせて1個のぐ犯として処理するのが相当である。

(処遇の理由)

本件は、ぐ犯及び無断外泊中に自宅に帰るため足代わりとして敢行した占有離脱物横領の事案であるが、少年の行状や生活態度は上記ぐ犯の非行事実として認定したとおりであり、このまま放置すれば、自棄的な気分が高じて窃盗、売春防止法違反等の罪を犯すおそれがあるばかりでなく、自傷行為に及んだり福祉犯罪の被害者となるおそれが大きい。

少年の性格、行動傾向をみると、基礎学力や年齢相応の社会常識が身についていない。家族や周囲の者に受容された体験が乏しいため、自信に乏しく、疎外感、孤立感を強く感じており、安定した対人関係を持つことが難しい。家庭でも学校でも自分の居場所をみつけられず、自信を失い、家庭や学校から離反し、行きずりの男性らとの性を介した関係のなかに刹那的な受容感を求め、やり場のない寂しさを紛らわすようになっている。

少年の家庭をみると、同胞が多く、少年は小さいころから基本的な躾を受けることができなかった。父親は、これまで子弟の養育を母親に任せがちな上、交通事故の後遺症等のため自宅療養中であり、少年に対して適切な指導を期待することはできない。また、母親は、少年らの養育や家庭内の様々な問題のため精神的に不安定な状態にあり、受容的な態度で少年に接することは困難である。このほか高校生の姉が少年の相談相手になっているが、同女も少年を心配する余り思いつめるなど精神的に不安定な状態にあり、同女に少年の指導、監督を委ねることは過酷であって相当でない。

以上のとおりで、非行の態様、少年の性格、行動傾向及び家庭の監護能力等にかんがみると、現状では健全な家庭生活や学校生活を維持することは困難であり、この際少年を教護院に収容保護し、家庭的で受容的な雰囲気のもとで、情操の安定と基礎学力の向上をはかるとともに社会性と自信を身につけさせるのが相当である。

よって、少年法24条1項2号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 川島利夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例